村上春樹「街とその不確かな壁」、田坂広志「死は存在しない」感想
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村上春樹氏の久しぶりの新刊「街とその不確かな壁」を発売日に買って読みました。
「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」を思わせる内容でした。
昔読んでうろ覚えなんだけど、「世界の終わり」では主人公は静寂の世界を脱出することを決意したような気がする。
静寂の世界は、エゴを排除?した世界で、影がない。
しかし、主人公はエゴの世界(っていうと簡単すぎか)で生きて行くためにそこを去る。
今回はその逆という印象を受けましたね。
つまり、エゴの世界は影が引き受け、主人公は静寂の世界に飛び込む、っていうか唐突に終わる感じなんだけど。
その時に、受け止めてもらえることを信じて、っていうのが未知のある種の死の世界の暗示のような気がしてくる。
作者である村上春樹じしんが年をとって、若いうちはエゴを育て、今や静寂の世界に飛び込んでいくことを表現したような。
発達障害のある子がその手引きをするっていうのも象徴的で、普通にエゴのある子では務まらない役割でもあるんではなかろうか。
田坂広志氏の「死は存在しない」を並行して読んだんだけど、その中でも個別のエゴと言うのが分断や評価や比較と言う苦しみの元であり、死後はそれがなくなるから苦しみから解放されるという。
ただ、エゴの消滅は人間にとっては当然ながら恐怖であり、それについて古来から誰にもわからないままになっていた。
田坂氏は、「宇宙意識」というものとひとつになっていくという壮大な視点から述べておられましたし、実際のところ今の意識では想像もつかない。
単純なスピリチュアルやブラックボックス的な思考はご自身が納得できないと書いていたが、宗教の中に直感的に把握されていると思われる部分があるとも。
ただ、難解だったり、科学では説明できないということで終わる。
田坂氏個人のアイデアであっても、非常に腑に落ちる部分が多い上に、人類の未来まで含めての話が展開されているのがすごい。
「街とその不確かな壁」での「受け止めてもらえることを信じて」っていうのが、「無」ではなく「宇宙意識」のような人間を超えた大きな力(意識)の中に飛び込んでいくということと通じるところがあると思った。